コラム / メンテナンス

    日頃のケアが生死を分けることも。極限に挑むARC’TERYXがリペアを通して伝えたいこと

    ゲストライター
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    自然と寄り添うアウトドアシーンにおいて、環境負荷を軽減することや、持続可能な社会の実現を目指すことは身近なテーマ。それゆえアウトドアに関連するプロダクトも、そしてその素材も、限りある資源として捉えていきたいもの。この連載では、アウトドアのプロダクトを直しながら大切に使っていくために、各ブランドが取り組む「リペアサービス」を紹介。今回は、カナダを代表するアウトドアブランド「アークテリクス」です。

    2022年10月にオープンしたばかりの「アークテリクス 東京 丸の内ブランドストア」には、世界で5番目となる「ReBIRD™(リバード) サービスカウンター」が設置され、製品のメンテナンス方法や修理の相談にも積極的に取り組んでいます。“最高品質”を自負するアークテリクスが考えるリペアとは。リバードサービスカウンター専任スタッフ、山口泰一さんに聞きました。

     

    捨てられる製品を減らすために、
    グローバル基準のリペア体制を開設

    最高のパフォーマンスを発揮するための“最高品質”を追求するアークテリクス。過酷なフィールドに挑むアルパインクライマーたちからも確固たる信頼を獲得しているのは、同ブランドが「妥協を一切許さない」という強い信念のもとでものづくりに挑んでいるからです。

    その信念は「Design from scratch(これまでにないものを作る)」という言葉とともに知られていますが、アークテリクスにはもうひとつ、「Designed to last(長く使えるデザイン)」という重要なポリシーも存在します。「製品として耐久性を追求することはもちろん、廃棄率を減らして環境負荷の低減にもつなげていくことが、アークテリクスのものづくりの根幹にある想いです」と山口さんは言います。

    それを象徴するのが、買い換えや買い増しを前提としたアイテムカラーです。アークテリクスでは、過去のシーズンのものと組み合わせても美しくコーディネートできるよう、製品はデザイナーが、色はカラーリストが決めています。それにより、必要のないアイテムまで買い換える必要がなく、ユーザーは安心してひとつのアイテムを長く使うことができるのです。

    「廃棄物を減らす施策として、昨シーズンからは製品サンプルの削減にも取り組んでいます。展示会(バイヤー向けの新作の発表会)ではシーズナルカラーを含め、製品サンプルが鮮やかに並ぶ様子が恒例でしたが、これをグレー1色のみに変更しました。サンプルの廃棄は、アパレル業界全体が抱える大きな問題のひとつ。アウトレット品として販売するなどの工夫をしてきましたが、それでもゼロにはなりません。少しでも環境への負荷を減らすための大きな決断です」

    そうしたサステナブルへの取り組みを体現しているのが、アークテリクスが新たに掲げる「ReBIRD™ プログラム」です。「Take(資源を採取し)」、「Make(作り)」、「Waste(捨てる)」という従来の一方通行型経済を、デザインの力で循環型経済にシフトさせることを目指した、アークテリクス独自の取り組みです。

    「『ReBIRD™ プログラム』の具体的なアクションとしては、ケアの周知とリペアを行う『ReCARE™』、使われていないギアを引き取り再販する『ReGEAR™』、廃棄物をアップサイクルする『ReCUT™』の3軸。現在日本では『ReCARE™』を先行してスタートさせており、『ReBIRD™ サービスカウンター』を国内で初めてアークテリクス 東京 丸の内ブランドストアに併設。対面式で修理の相談を受け付けられる体制が整いました」

     

    命を預かるウェアだからこそ、
    あえて“直さない”という選択も必要

    アークテリクスは、これまでも「BIRD AID」という修理保証プログラムを展開し、商品の修理を受け付けてきました。新たに展開した「ReBIRD™ サービスカウンター」の利用方法は、事前にホームページからネット予約をし、サービスカウンターに持ち込むだけ。従来の電話やメールでのやり取りに比べて利用しやすく、より正確なコミュニケーションが取れるようになりました。

    「2021年秋にニューヨーク ブロードウェイ店に初めて開設され、東京はトロント、コロラド、北京に次ぐ世界5番目のサービスカウンターとなります。ここでお預かりした修理品は基本的に国内のパートナー工場へ送られ、プロの手によって修理されます」

    「今回、新たにReBIRD™サービスカウンターを設けたのは、修理だけでなく、長くお使いいただくためのメンテナンスの方法や取扱方法を直接ご説明する場が必要だと思ったからです。これまで修理を受け付けてきた製品の8〜9割はGORE-TEXを使ったジャケット類なのですが、保管方法がよくなかったり、日々のメンテナンスがされていなかったりするものが多いというのが課題でした」

    コロナ禍以前はワークショップなどのイベントでメンテナンス方法の周知に努めてきましたが、その役割も今後はReBIRD™が担っていくことになるのだといいます。ところで、アークテリクスがそれほどまでにメンテナンスを重視するのはなぜなのでしょうか。

    「GORE-TEXの素材が汚れや皮脂によるダメージを受けているかどうか、その状態が修理の可否に大きく影響します。私たちはこれまでにもたくさんの修理品をお預かりしてきましたが、その内の1/4〜1/3は、残念ながら修理不可と判断しています。中でも多いのが、しっかりメンテナンスされていないことが原因で、修理不可となるケースです。複数の層からなるGORE-TEXの生地が剥離してしまっていると、メーカーとしては修理しても防水透湿機能の担保ができず機能回復ができないため、“直さない”という判断をせざるを得なくなってしまうのです」

    反対に、しっかりとメンテナンスがされており、GORE-TEX ファブリクスさえ剥離や劣化していなければ、ほとんどの場合は修理することが可能だそうです。

    「私自身、アクティビティから帰ったら必ず中性洗剤で洗濯し、乾かしてアイロン掛けをするという方法でケアしているので、長年GORE-TEXの製品を愛用していますが、しっかり性能を保つことができています。GORE-TEXはそうやってケアすれば、長く使える素材です。だからこそ、日頃のケアが大切なのです」

     

    「使ったら洗う」の徹底で、
    ほとんどのケースは修理できる

    アウトドアフィールドにおいて、ウェアの破損や機能不全は命に関わる重要なファクター。ハーネスやカラビナと同じく、命を預かるギアとしてウェアを考えているからこそ、アークテリクスはリペアにも厳しい基準を設けているのです。

    「ReBIRD™サービスカウンターでは、必要であれば資料などもお見せしながら時間を掛けてご説明しています。GORE-TEXの構造や撥水の仕組みをご理解いただければ、きっと正しいケアをしたいと思ってもらえるはずです。直せないではなく、“直さない”という判断にならないように、ぜひ正しいメンテナンスを心掛けていただきたいと思います」

    「ニューヨークでReBIRD™がスタートしたときから日本でも展開したいと思っていましたが、問題はスタッフです。必要な道具は買えば揃いますが、経験や知識に富んだ信頼できるスタッフがいなければ、見せかけになってしまう。なので具体的な時期までは明言できませんが、これから少しずつできることを増やしていけたらと思っています。ものづくりと同じく、そこに一切の妥協はありません」

    最後に、GORE-TEX プロダクトのユーザーに向けて山口さんが伝えたいこと。それはやはり、メンテナンスに関するものでした。

    「繰り返しになりますが、アウトドアウェアは命を預かる重要なギア。ですから、洋服ではなく道具として扱っていただきたいです。“直さない”という判断に関して、ご納得いただくのには難しいこともあるでしょう。ですが、逆に修理できる物に関しては、最善を尽くしてリペアさせていただきます。修理の可否は、やはり直接ものを見て、使用状況などもお伺いしながらでなければ判断できませんので、ぜひお気軽にお持ち込みいただき、カウンターにいる我々に話し掛けてほしいと思います」

     

    ▼アークテリクス「ReBIRD™ サービスカウンター」予約詳細
    https://arcteryx.jp/pages/rebird-service-counter

    ▼アークテリクス アウターウェアの洗濯方法
    https://arcteryx.jp/pages/howtocare

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