自分たちの力で未踏の高峰へ
鈴木雄大さんはここ数年、ペルーやパキスタンで高難度の未踏峰や未踏ルートを次々と登り、世界のクライミングシーンで頭角を現している若手アルパインクライマーの一人です。
山との出会いは、早稲田大学の山岳部に入部したことがきっかけでした。国内での厳しい山行を重ねるなかで次第に海外への憧れも抱くようになり、21歳のときに現役部員を中心としたチームでヒマラヤへ。挑んだのはネパールのアイランドピーク(6,189m)でした。そして、この登山が鈴木さんのその後を決定づけます。
「アイランドピークは初めて経験するヒマラヤの高峰で、急峻な氷雪壁が数百mも続くなど登り応えはありましたが、物足りなさも感じて。フィックスロープが頂上まで張られていて、高所に耐える体力があれば、誰でも登れてしまう山だったんです。山頂から下っているときには、『次は自分たちの力で未踏の山やルートを登ってみたい』と考えていました」
アイランドピークにて、21歳のとき。
その思いが結実したのが、大学5年の秋に山岳部の後輩とOBの3人で登ったネパールのラジョダダ(6,426m)です。この山は当時ネパール政府が公開していた未踏峰リストに記載されていた一座。山頂へのルートはもちろん、ベースキャンプの位置さえもわからない状況のなか、自分たちだけで未知の山を切り開いていく冒険的なクライミングはそれまでに感じたことのない刺激と満足感を与えてくれました。
「サミットプッシュは26時間の長時間行動となり、テントに戻ってきたときには心身ともにボロボロでした。それでも3人で未踏の頂に立ち、そこで目にした光景と噛み締めた喜びは一生忘れられない記憶として焼き付いています」
27歳でフルタイムクライマーに
大学卒業後は一般企業に就職しますが、自ら希望して配属された北海道でアルパインクライミングや山岳スキーに打ち込みます。すべては近い将来、海外の高峰にふたたび挑戦するためでした。
転機は27歳のとき。北海道からの転勤の辞令が出たことで、会社員を辞め、フルタイムクライマーとして生きていく決意を固めます。
「20代のうちに自分の限界をプッシュするクライミングを何本かやっておかないと、30歳を過ぎてからだと難しい——そんな話がアルパインクライマーの間でよく言われていました。自分も20代後半となり、ちょうどコロナ禍も落ち着いてきたので、いいタイミングだと思ったんです」
2022年、鈴木さんが向かったのは、アラスカのハンター北壁ムーンフラワーバットレスでした。その巨大さと傾斜の強さから北米屈指の課題とされるルートで、「高峰の巨大な壁で自分がどれだけ通用するのか、試してみたかった」という狙いがありました。

2022年、アラスカのムーンフラワーバットレス。
この難壁を登り切り、自信を得た鈴木さんは、翌23年にペルーアンデスへと向かい、アウサンガテ(6,384m)の未踏の北壁を初登攀します。以後、ガンバルゾムⅤ峰(パキスタン/6,400m)初登頂、キタラフ(ペルー/6,036m)南スパー初登攀、ツイⅡ峰(パキスタン/6,523m)西壁初登攀、ハショーピークⅡ(パキスタン/6,080m)東ピラー初登攀と、わずか数年のうちに次々と海外の未踏峰や未踏ルートの登攀を成し遂げていきます。
2023年、パキスタンのガンバルゾムⅤ峰。

2024年、ペルーのキタラフ 南スパー。「人生でもっとも危険な登攀」というほど困難なルートを開拓しながら登頂した。新しいルートは「ドリームハウス」と名付けられた。
2025年パキスタンのハショーピークⅡを登頂後、ベースキャンプを撤収し、ポーターたちと暖をとる。
未踏の壁に美しいラインを描く
なぜ未踏の山やルートにこだわるのか。鈴木さんは「未知のものを解明していくことが面白いから」と語ります。
「今いる場所のその先でルートをつなげられるのか。それを自分たちで登りながら、探っていく。誰も登ったことのない手つかずの壁に、クライマーの意志で美しいラインを描いていくことが、アルパインクライミングの醍醐味なんです」
当然、未踏ゆえの難しさもあります。そもそも事前に得られる情報が限られているため、「山やルートを探すのはいつも苦労している」とのこと。主な情報源は、英語圏の山岳・クライミング関連のメディア。サイトに載っている写真をつぶさに見て、惹きつけられるピークや壁が写っていたら、キャプションなどを頼りに詳しい情報を調べていきます。また、Google Earthで気になる山の画像を確認することもあるそうです。
山の全容がわかるような写真が手に入ったら、岩の形状や氷の状態などを細かく見て、登攀の可能性を探ります。とはいえ、実際の壁がどうなっているのかは、現地に行って取り付いてみなければわかりません。
「日本での下調べの段階では、登れそうな確率が3、4割ぐらいでも、とりあえず行ってみようと判断します。その後、現地に入って自分の目で壁を観察し、5、6割の可能性を感じられれば、行けるんじゃないかとなるんです」
これまで登ってきた未踏の山や壁にはそれぞれに個性があって比較は難しいけれど、会心の登攀ができたという手ごたえを最も強く感じているのがツイⅡ峰だと鈴木さん。
「ツイⅡ峰の西壁は、事前に写真が入手できず、現地で初めて壁と対峙したんです。その意味で未知の要素が一番強かった。ルートも、垂直に近いピッチが出てきたり、アイスだけではなく、素手で登らなければならない岩場があったりして、自分たちのスキルや経験を総動員して何とか登ることができました。登ったあとの充実感はかなりありましたね」

2024年6月にペルーのキタラフを登頂後、9月にはパキスタンのツイⅡ西壁を初登攀した。ルートは「Spider’s Thread」と命名された。
どんな状況でも守ってくれる。『GORE TEX®』だからこその安心感
未踏ルートの登攀では、想定外の状況に遭遇することも珍しくはありません。それが原因で撤退をしたり、事故につながる場合もあります。目的のルートを登り切り、そして無事に下りてくるために、鈴木さんが重視していることが「山を見極めること」です。
「困難なルートを登るには、自分の限界を超えなきゃいけない局面は必ず出てきます。だからこそ、ルートに取り付く前、山のコンディションの見極めは慎重に行います。落石や雪崩など人間の側でコントロールできないリスクが大きすぎると感じたら取り付かないですし、天候が悪化しそうなときも無理はしません」
また、装備の選択も、登攀の成否やチームの安全に直結する重要な判断要素です。多くの装備を持っていけば、想定外の事態に直面しても対応できる可能性は高まります。しかし、荷物が重くなり、登攀のスピードは削がれます。特に標高の高い山では、平地以上に重さが大きな負担となり、行動を左右します。
「何をどれだけ持っていくかの選択はすごく大事で。それは、クライミングギアはもちろん、ウェアや食料についても同じです。できるだけ多用途で軽いものを選び、無駄な重複がないようにしています」

厳しい山行で信頼をおいているアセントピークジャケット。 ©THE NORTH FACE
限られた装備で未知のルートを登っていかなければならないからこそ、高い防水透湿性など多彩な性能を備えたGORE TEX® プロダクトには信頼を寄せています。
「山で遭遇する状況を事前に100パーセント予測することは不可能です。スノーシャワーを浴びながらの登攀になることもあるし、ドライな岩場を登るかもしれない。突然の猛吹雪に見舞われることもあります。その点、GORE TEX®のウェアならば、どんな過酷な状況にも耐えられるんじゃないかという安心感がありますよね」
今、愛用しているのは、THE NORTH FACEの「ツイゾムピークジャケット」。ツイⅡ峰がその名の由来のアルパインクライミング用のアウターで、THE NORTH FACEのアスリートとして鈴木さんも開発に携わった一着です。表地には、7デニールの非常に薄い生地に70デニールの太い糸のリップストップを織り込んだ、新開発の特殊な生地を採用。軽量かつ携行性に優れながら、アルパインクライミングのシビアなコンディションにも耐える高い耐久性を実現しています。
「最近のモデルは、防水性や透湿性だけではなく、軽さや動きやすさも向上しています。このシェルは柔らかな着心地で動きが妨げられず、激しい運動をしても蒸れないので、クライミングをするときにも躊躇なく着ることができます。これ一着さえあれば、壁のなかで遭遇するさまざまな状況にも対応できるので、いつも必ず携行しています。ほかに替えが効かないです」


軽量防水透湿に優れたツイゾムピークジャケット。 ©THE NORTH FACE
まだ見ぬ世界へ――終わりなき山旅
このインタビューを行ったとき(2026年冬)、鈴木さんは一人で南米アルゼンチンに滞在し、現地で意気投合した外国人クライマーたちとフィッツロイなどを登っていたそうです。
「これからも、どんな壁にトライできるのか楽しみにしています。ビッグウォールの開拓でいえば、ほかにもグリーンランドやキルギスにも興味があります」
2026年2月、アルゼンチンのエルチャルテンにて。
鈴木さんは、国や地域を限定することなく、世界中の山々から自分の心が惹きつけられる未踏の山や壁を探し続けています。未踏ルートの初登攀を次々に成功させている実績は周囲から高い評価を受けていますが、本人としては「無数にあるうちのわずか6つしか登れていない」という思いを抱いているそうです。
「登りたい山、行ってみたい場所はたくさんあります。今は自分の時間のすべてを山に注いでいますが、世界の山の数を考えれば、まったく登り足りていないです」
未知との出会いを求め、鈴木さんはこれからも世界の山々を登り続けていくのでしょう。

©THE NORTH FACE
原稿:谷山宏典 写真:鈴木雄大、THE NORTH FACE提供 編集:ユーフォリアファクトリー